ブランド戦略の練り直し

2025. 01. 26

ロバート・コステロ / 事業成長責任者

ブランドに関する意思決定は、主にマーケティング責任者(CMOなど)の仕事。でもこの職務は、社内でさまざまな誤解に直面します。うわべだけのメッセージが好きな社長の説得に手を焼いたり、マーケティング予算の費用対効果について他の役員に詰められたり、なにかと損な役回りも珍しくありません。

顧客ロイヤルティ、従業員エンゲージメント、ブランドの明瞭な一貫性など、そもそもブランディングへの投資に理解のない経営陣も足かせになります。長期的な事業の成功に欠かせないブランディングが、しばしば不勉強な同僚たちに軽視されるのは困った事態です。

でもブランディングを軽視した経営を続けていると、いつしか企業やブランドは不利益を被ります。ブランディングが弱い企業は成長が遅く、賢明な競合他社に顧客を奪われます。場当たり的な施策を繰り返すことで、従業員の離職率が高まったり、マーケティングや広告への無駄な支出も増えたりします。

さまざまな重要プロジェクトを抱え、リソースや予算の配分に頭を悩ませているマーケティング責任者のみなさん。あらゆる決断の中心に、ブランディングへの配慮を据えてください。以下に挙げる3つの基本的なポイントを踏まえることで、意思決定の迅速化と業務の合理化が進みます。そして自社の事業に情熱を傾け、競合他社を凌駕する革新的なチームづくりさえ可能になるのです。

ブランド戦略への投資は増収に直結

ブランド戦略にしっかりと予算をかけることで、確実な増収が期待できます。この因果関係には、ほとんど反論の余地がありません。最高経営責任者(CEO)や意思決定者は、例外なくブランディングの成否に注目すべきです。

出典:ハーバード・ビジネス・レビュー、ユニバーサム・グローバル

ブランドの認知度は、製品やサービスの価格に上乗せできるプレミアムとして収益に直結します。たとえばアップルのiPhoneやエルメスのバーキンは、製造や流通のコストだけで価格が決められるわけではありません。確立されたブランドの魅力によって、顧客が喜んで支払うであろう金額から価格が導き出されます。競合他社が技術や品質をすぐに模倣できるような市場では、ブランドの認知度が顧客のロイヤルティを維持し、リピーターを定着させる原動力になります。多様なチャンネルで一貫したブランドのイメージを打ち出せば、20%以上の増収が期待できることを多くの研究結果が示しています。

ブランドの一貫性を維持することは思いのほか難しく、大規模なグローバル企業ほど苦労しています。マーケティング担当者がブランドの一貫性を確立させるには、明確なガバナンスと業務遂行の枠組みが必要です。しかし現実にはそんな仕組みがなかったり、各地域の現地チームが本社のブランド戦略とは異なる方針で動いている場合もあるでしょう。その結果、ブランドのルック&フィールは散漫になり、ぶれたストーリーを目にした顧客がブランドのメッセージや価値観を理解しにくくなってしまいます。

このような混乱が、顧客の離反と競合他社への流出を促します。米国の大手百貨店であるJ.C.ペニーや、日本の大塚家具も同様の苦難を味わいました。競争力を上げようとリブランディングに取り組みましたが、組織が変化についていけずに失敗しました。従来の顧客ベースを失い、思うような業績改善もできなかったのです。

ブランド発信の表現やスタイルをしっかり管理することで、社内の全チームが大目標を共有できるようになります。わかりやすいガイドラインに基づいてブランドが打ち出せたら、コンテンツ制作も効率化されてコストを大幅に減らせます。そして一貫したブランドの露出は消費者に親しみを感じさせ、ブランドの認知度アップにもつながるのです。 

投資家の判断材料としても、ブランド力を重視する傾向はますます強まっています。世界的な会計事務所のアーンスト・アンド・ヤングによると、新規株式公開(IPO)投資の約40%が、財務状況以外の要素によって判断されています。これには経営陣の経験値や信頼度、企業戦略の実行力、ブランド力、コーポレートガバナンスなどへの評価が含まれます。魅力的な投資先でありたいのなら、明確な戦略に裏打ちされたパワフルなブランド戦略を立てるのが近道になります。

ロゴだけがブランドじゃない

クリエイティブエージェンシーであるEat Creativeには、ロゴの制作依頼がよく届きます。でも新しいロゴを作るだけで、ブランドが生まれ変わるわけではありません。製品やマーケティング資料に新しいロゴを掲示するだけでは、誰も本質的な変化に気づいてくれないのです。新しいロゴが効力を発揮するには、その背景となる戦略的な根拠が必要になります。企業がどのように進化し、顧客にどんな価値を提供するのかを具体的に示す存在でなければなりません。

ロゴ、パッケージ、パンフレット、キャンペーンなどのマーケティング活動が、即物的にブランドを代表するわけでもありません。製品やサービスを通して、顧客にブランドの主張を届ける拡声装置がブランドの本質です。世界に存在を訴え、声を届けるためにブランドはあります。その姿や声を受け取ったオーディエンスの体験がブランドの実体です。かつてマイケル・アイズナー(ディズニーの元CEO)は、次のように語りました。

「ブランドは生き物。時間をかけてゆっくり力を蓄え、無数の小さな行動を積み重ねた成果がブランドになる」

この「小さな行動」は、社内外のあらゆる接点で積み重ねられます。ブランド名、ストーリー、ウェブサイト、カラーパレット、イメージ、価値観、コミュニケーション、ユーザー体験など、すべての要素を慎重に検討しなければなりません。どんな場面でも、唯一無二の力強いストーリーを輝かせるようにしておくためです。

競合他社との差別化を顧客に理解してもらうことが、ブランド構築の鍵になります。先進技術がすぐに陳腐化する現代では、どんな企業も事業範囲や製品ポートフォリオの拡大に追われています。そのような競争環境で成功を望むなら、なおさらライバルたちから抜きん出なければなりません。効果的に自社を差別化する唯一の方法が、ブランド構築を通じて認知度と評価を高め、他社との違いを際立たせることです。

ロゴの新調だけで満足していると、総合的なブランド戦略で得られるはずの成長をみすみす取り逃がしてしまいます。

ブランドの目標設定があらゆる意思決定の指針に

長年にわたって高い業績を収めてきたリーダー企業は、自社ブランドの目標設定に多大な注意を払っています。ブランドが掲げる目標から唯一無二のビジョンが導き出され、新たな分野に乗り出すチャンスも広がるからです。

ブランドの目標には、「ブランドの3要素」を盛り込む必要があります。

         •        ブランドの強み(他社より優れている価値の主張)

         •        道徳的な行動(共感を呼ぶ理想の宣言)

         •        事業の業績(経済的成長への意欲)

この3要素を問い直すことで、企業のリーダーはブランドの目標をストーリーとして語れるようになります。それは自社の競争優位性を明らかにし、成功への道程を描き、将来にわたって従業員の熱意を引き出せるようなストーリーです。 

ブランドの目標に盛り込まれたエッセンスは、企業の幹部がさまざまな判断を下すための指針となります。たとえば新分野に参入する際は、それが本業の目標に寄与してコアな特長を強化するものでなければなりません。あらゆる新しい決定には、従業員たちのやりがいを引き出すストーリーが必要です。このような自省によってブランドの目標に立ち返れば、正しい答えがおのずと見つかります。

世界的なテクノロジー企業であるアップルには、「人々を力づけ、生活を豊かにするテクノロジーの創造」という企業理念があります。エンドユーザーの満足を追求する姿勢は、経営陣が大きな意思決定をする際の根拠となってきました。数々のヒット製品はもちろん、AppleCareやApple TV+などのサービスもその一環。約50年前に創業して以来、この企業理念は絶え間ない挑戦と革新を生み出しています。 

またナイキは「スポーツの力で世界を前進させること」、イケアは「もっと快適な日常を多くの人々に」、ディズニーは「世界中の人々を楽しませ、大切なことを知らせ、感動させること」をそれぞれブランドの目標に掲げています。

これらの企業は、みな顧客、従業員、パートナー、地域社会との協力関係を結ぶ際に、シンプルなミッションステートメントを提示することでトップブランドの座を維持してきました。ジム・コリンズ(経営管理研究者)とジェリー・ポラス(組織理論家)の研究によると、目標や価値観を原動力とする組織は通常よりも15倍の確率で市場を勝ち抜き、6倍の確率で競合他社を上回ります。ブランドが目標を掲げる効果は絶大なのです。 


ブランドを成功に導くチェックリスト

マーケティング担当者が、自社ブランドを成功に導くためのチェックリストを作成してみました。思考の整理や自己診断にご活用ください。

         •        企業活動の目標をシンプルな宣言に凝縮できていますか?

         •        従業員が、みな企業やブランドの目標を理解していますか?

         •        企業としてのユニークな価値を対外的に説明できますか?

         •        従業員が誇れるような企業価値を対外的に説明できますか?

         •        一貫した効果的なスタイルで力強くブランドを伝えるためのガイドラインは作成済みですか?

         •        顧客の信頼度や信頼の根拠を自己評価できていますか?

         •        自社事業の最重要ポイントにはっきりと焦点を当てていますか?

         •        ブランドのアイデンティティを構成する要素(ロゴ、カラーパレット、トーン・オブ・ボイス、属性、イメージスタイルなど)を明確に定義できていますか?

答えに自信のない項目があるのなら、きっとそこに課題とチャンスが隠れているはず。力強いブランディングによって事業を成功させるため、まだまだできることがあります。ブランディングに関する専門的な知見が必要なら、お気軽にEat Creativeまでお問い合わせください。

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