Bコープ認証への道
ロバート・コステロ / 事業成長責任者
ビジネスの目的を問われたら、Eatとしてはこう答える。クライアント、ステークホルダー、地域社会などに、業務を通して具体的かつ実質的な利益と好影響をもたらすこと。インパクトのある提案や美しいロゴを作るだけでなく、クライアントが真意を理解して効果的に使いこなしてこそ目的が達せられる。
このような理想を語るとき、その原則は私たち自身に対しても厳しく向けられなければならない。クライアントにサステナブルな経営を助言するのなら、まず隗より始めよ。地球規模の問題について語るのなら、その資格を証明する自己評価も必要だ。
この記事を書いている2024年6月現在、Eatは企業としてサステナビリティの初心者レベルだ。これまでも、できる限りのことはやっている。オフィスや家庭でプラスチックの廃棄量を記録したり、電気と水道の使用量を監視したり(プリンターの電気代には驚いた)。オフィスで使用する再生可能エネルギーと化石燃料の割合も比較した(ただし賃貸オフィスが単一の電力会社に依存しているので改善の余地はない)。
最近は世界的な「クリーン・クリエイティブズ」の誓約書にも署名した。化石燃料の販売やロビイングに関わる組織とは取引しない。環境に悪影響をもたらす企業の仕事はちゃんと断る。そんな公約をした同志のエージェンシーは、世界に1000社以上もある。
そしてこのたび、Eatは有名なBコープ認証の取得も目指すことにした。これはサステナビリティとエクイティの世界基準を満たした優良企業の証明だ。コーポレートガバナンス、従業員の福利厚生、環境問題への取り組みなどの6分野で達成度によって審査される。この達成度によって得意分野や弱みも明らかになり、有料の再審査で認証結果が更新できる。
世界中の有名企業が、Bコープ認証によってサステナビリティへの取り組みをアピールしている。その一方で、認証がグリーンウォッシュに悪用されているという批判もある。ネスレのBコープ認証に難癖が付いたのは、ネスプレッソのアルミニウム製コーヒーカプセルが大量に廃棄されているからだ。生産工程における人権の軽視も指摘されている。同じくBコープ認証済みのダノンも、プラスチック容器に依存する世界10大企業に名を連ねている。
しかしこのような例だけで、Bコープ認証が無価値だとは断定できない。世界にはBコープ認定企業が約8,000社もあり、その多くが二酸化炭素の排出量を削減して生態系や社会を改善する行動を起こしている。
サステナブルで公正なコーポレートガバナンスを提唱するなら、まずは自らがBコープ認証企業になった方がいい。査定のプロセスからも学びを得て、グリーンウォッシュなどの問題についても検証しよう。そう考えた私たちは、EatのBコープ認証に向けて一歩を踏み出した。
Bコープ認証の可否は、「Bインパクト・アセスメント」(BIA)で決められる。これはESG全般にわたる取り組み、方針、成果を数値化した評価方法だ。この数値を見るだけで、その企業がBコープ認証に値するのか、大きく出遅れている企業なのかが一目瞭然になる。日本のクリエイティブエージェンシーとして、このBIAの課題や機会について知見を得られるだけでも価値があるだろう。
アセスメントの質問は、6分野で200件以上に及ぶ。さまざまな国、市場、ビジネス環境、文化、社会規範などを想定した質問集だが、業界や地域によっては実行不能な難問もある。このようなハードルは、アセスメントのスコアに最初からマイナスの影響を与える。
たとえば、日本ではエネルギー供給者の選択肢が限られている。自治体ごとに決められた事業者(東京電力や東京ガスなど)が、エネルギーの生産と配給をほぼ独占しているからだ。さらに日本はエネルギー生産の80%以上を化石燃料に頼っているため、各企業が自発的に再生可能エネルギーを選択できる余地はない。そのためエネルギーミックスに関する質問にはゼロ回答になる。
サービスプロバイダーやサプライヤーに関する質問にも、日本特有の状況が立ちはだかる。「主要な取引銀行はBコープ認証企業か」という質問で、日本の企業がポイントを稼ぐことはほぼ不可能だ。大手都市銀行以外の金融機関に乗り換えると、支払いや財務管理が難しくなってしまう。
資格取得に必要な合格ラインは、200点満点中80点以上。我々Eatのスコアは47.2点だった。不甲斐ない低スコアには失望したが、合格に向けたハードルは意外なほど低いこともわかった。ダイバーシティ推進の方針を求人広告に記載したり、取引企業にダイバーシティ関連の条件を求めることでスコアは上がる。このような施策の実態はBIAの次に精査されるが、迅速に成果を上げられるアクションであることは間違いない。
世界のBコープ認証企業は、前年比で30%以上も増加している。これは企業イメージが消費者の選択を大きく左右するようになり、企業の側で認証取得のニーズが急速に高まったからだ。このような認証数の増加が起こると、考えられるのはBコープ認証の厳格化である。これから認証を申し込む企業は、去年よりも明確なコミットメントが求められる可能性はある。Bコープ認証機関の公式声明によると、そのような変化は今年後半から起こるかもしれない。
今すぐBコープ認証を取得する予定がなくても、企業やブランドはBIAの数値から自社の状況を診断できる。長期的に取り組むべきサステナビリティの方針について、どんな要素が足りていないのかを知るのは有益だ。気候変動に関するミッションの策定、従業員向けボランティアプログラムの充実、エネルギーミックスの多様化、二酸化炭素削減に向けたビルオーナーとの協働など、具体的な注力分野が明らかになる。
小規模な組織であるEatは、クライアントからの依頼と自社のサステナビリティ基盤をバランスよく両立していかなければならない。そのためにも、BIAは今から始められる取り組みを特定するのに役立った。
みずからサステナブルな企業となり、気候変動への取り組みを拡大し、公平なビジネスを展開するためのアクションは始まっている。同じ未来を目指したいという方は、ぜひEatと一緒にBコープ認証の旅に出よう。スコアや分析を共有することで、お互いにさまざまな学びが深められるはずだ。
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