Eating Habits
Eat 1号: 誘惑

この記事は2000年10月に公開されたものです。

禁欲の誓いを立てている尼僧や司祭だって、食事を楽しめないわけではないだろう。 カトリック教会の聖職者、なかでも最も神に近い彼らの味覚は、どんなものにそそられ、誘惑されるのか。ローマに取材した。 

アイスクリームの存在は人類史上最大の誘惑か?

エデンの園では果物が悪者になったにもかかわらず、カトリック教と食べ物の関係は、世界でも指折りのリベラルさを誇っている。禁じられた食べ物も断食もなし。

イエス・キリストの言葉には、こうある。 「罪とは、口に入るものではない。それは口から出て行くものだ」 

ローマの街角で見かける司祭や尼僧たちが、これ見よがしにモッツァレラ・チーズを食べたりアイスクリームに夢中になっているのは、肉体の喜びは味わえないけれども、食への愛情は罪ではないとされているからではないだろうか。好きなも のをちょっとだけ味わうことが人生を楽しくするのなら、それは単なる悪癖ですまされてしまうらしい。 

このように聖職者たちは明らかに食を楽しんでいるものの、レストランなど公の場で食べ過ぎている彼らの姿はまず見かけない。だが、宗教施設での食事は質素なものと相場が決まっているから、間違いなく食べ物への誘惑は存在するはずだ。教区司祭なら状況は悪くないだろう。なぜなら、彼らには教会から派遣される住み込みの手伝い兼料理人がいて、扉を閉じれば好きなように食事を楽しむことができるのだ。

 大酒のみの坊主のように、我々の中には“酔っぱらった赤鼻の修道士”というイメージがあるものの、聖職者がいつも自分を甘やかしているわけではない。しかし、今日立派な産業として成り立っている、ビール、ミード(ハチミツワイン)、チョコレート、グラッパ、リキュールなどのように、聖職者が作り はじめた誘惑は数多い。ローマの中心街にある2軒の専門店に行けば、これらはすべて揃っているし、さらなる誘惑の世界を知りたければ、リッチ広場にある “ピエルルイジ” という、豪華な宮殿暮らしの在俗司祭がよく利用する高級レストランに行ってみればよいだろう。 

また、フランス人尼僧が管理するオーヴィーヴ修道院は唯一、自制の規則がない女子修道院だ。ローマのモンテローネ通り30にあり、トロピカル・リゾットや野菜プディングなど洗練された料理を出してくれるこの修道院食堂は、一般の人も利用することができる。 

聖職者グルメをさす現代イタリア語に、“司祭のおいしいひと口”という表現がある。これはパスタ皿の底に残った最後一口分のソース、つまり料理のいちばんおいしいところを指している。また、長細いニョッキにクリーミーなソースをかけた “ストロッツァプレティ”という人気パスタは“司祭を締めあげるもの”という意味をもつ。もし、この名前で聖職者たちの食欲を萎えさせようと思っているとしたら、残念ながらそれは成功しているとは言い難いだろう。

文/カルロッタ・ミスメッティ・カプア 写真/ウーゴラフラ