ペットフード
Eat 14号: ペット
この記事は2003年5月に公開されたものです。
スーパードッグ
病みつきとしか言いようがないですね。陽気だし調教しやすいし、活発で一緒にいると楽しくて。プードルはぼくにとって理想の犬です。もちろん、美しい犬だとも思いますよ。クリッピングしてシャンプーして、ふんわり乾かしてカットするまで何時間もかかるけど、ぼくはプードルをグルーミングするのも大好きなんです。愛犬をみんなに見せたいと思う人には、ピエロみたいに演じるのが大好きなプードルはすごく面白いだろうけれど、ショーに出るには事前にいろいろ準備が必要です。グルーミングに何時間もかかるし、犬にも心の準備をさせなくちゃいけない。勝ち目がないと思えば、わざわざショーに出したりはしません。でも、スーパードッグになれなかったからって世界が終わるわけじゃない。すごく有望そうに見えるのに結果を出せない犬が大勢いるんですから。クラフツは世界最大のドッグショー。キングを連れて行ってみて、彼がとてもレベルの高い犬だってことはわかりましたが、あんな大きなショーで優勝するなんて夢にも思いませんよ。実際に審査員が目の前に来て、こっちを指差して優勝だって言われても、まさかって感じでしたね。
冷たい食べ物の熱いおいしさ
犬肉料理のコツは犬肉特有のにおいを押さえて、肉を柔らかくしてあげること。そのためによく煮込むのですが、わたしは調理の際に、自分の田舎で栽培した豆で造った自家製の味噌を加えています。もう1つ、肉をおいしくするために大切なのが温度調節。これは肉の色を見て判断しなければならないので、経験によるところが大きいですね。煮込んだ肉と肉汁、そして野菜を一緒に合わせて食べる、この「タン」という犬肉料理は母親に習ったもので、23年間この調理方法は変えていません。ほかにも、肉の味そのものを味わうなら肉を蒸した「シュユク」、また、ニラやセリ、エゴマの葉などの野菜と一緒に煮込んだ鍋の「ジォンコル」などが、韓国の代表的な犬料理です。食べるときには酢、辛子、醤油、エゴマなどを合わせたソースもよく使います。犬肉は韓国医学では冷たい食べ物と言われ、夏バテを克服するために食べられます。また、不飽和脂肪酸が多いため体内での消化吸収がよく、手術後の補身用に好んで食べられるほか、火傷にもよく効くと言われています。動物愛好家の人たちは犬肉を食べることに反対を唱えますが、わたしたちが料理に使っているのは愛玩犬ではなく、食用に飼育している犬ですから、その辺りを誤解しないでほしいですね。いまも一部の人々は文化的、社会的な偏見を持っているようですが、犬肉はわたしたちが数百年前から食べてきた韓国固有の食べ物。だからわたし自身はプライドを持って料理をしています。
手馬、手綱いらず
物心ついたときからずっと馬に乗っていました。初めて自分の馬を持ったのは11歳のとき。ハドソンというドイツ馬ですが、顔つきとか首のライン、それにプライドの高いところを見ると、アラブ系の血が混ざっていると思います。いま飼っているのは去勢馬ばかり4頭ですけど(雄馬は言うことを聞かないし、雌馬は気分にムラがあるので)、それぞれ個性的ですね。ほかの馬を蹴ったり噛みついたり、ハドソンはボス風を吹かしたがるんです。アルゼンチン産ポニーのエンビデオーソは、ちょっと変わり者で神経質だけど、すごく利口。わたし以外は誰も乗せようとしませんが、わたしにはとても忠実です。あとの2頭は障害馬で、リビング・スターというまじめなドイツ馬と、アイルランド産で葦毛のカバーズ・プライドです。カバーズ・プライドはかなり気分屋で、初めはわたしとも気が合わなくて、足首を踏まれて大ケガをしたこともあったけど、いまはすっかり仲良しです。必要なものは何でも与えるようにして、お仕置きもやめました。まるで大きな赤ちゃんですが、あの子は伸びると思います。週末はたいてい障害をやっていて、国際的な競技会でも何度か入賞しました。障害飛越は難しいからこそ面白いし、独特の雰囲気も気に入っています。馬にも気力が伝わるんでしょうね、馬同士が見栄を張り合ったりします。こちらが計画を立てても番狂わせが付き物なので、馬と一緒にいると全然退屈しません。いちばん好きな馬なんていないですよ……4頭ともみんなかわいい。わたしの生きがいです。もし乗れなくなったら、きっと恋しくてたまらないでしょう。
この肉が極上な理由
熊本は日本全国の8割を占める馬肉消費県で、スーパーの食肉コーナーでも普通に売っているし、消費量も牛肉よりも多いと言われています。馬肉はね、冷蔵庫から取り出すと、色がパーッと薄いピンク色になるんです。これは馬肉に鉄分やミネラル分が豊富なため酸化しやすいからで、桜肉という命名もここから来ています。食肉用の馬は3歳くらいまでの去勢している雄か、子どもを産んでいない雌です。生産者は飼料や飼育環境に気を配って、肉そのものに甘味とやわらかみがあるおいしい霜降り馬刺しを作る努力をしているから、いまの肉質は本当に違いますね。(馬肉を)食べる前は足が震えた、なんて言う人もなかにはいますよ。でも、そういう人もうちの店で食べて、「馬肉がこんなにくせがなくてさっぱりしているなんて……」と驚いています。特に馬刺しは食べやすいし、霜降り肉でも味は見た目よりずっとさっぱりしているんです。たとえば牛の焼肉を2人前食べたら胃にもたれるけれど、馬なら大丈夫。馬肉は高タンパク、低カロリー、低脂肪、おまけに脂肪分は牛肉の1/10、豚肉の1/5と、本当に身体にいい肉なんですよ。イタリアやフランスでも、健康的な肉として食べられているようですし。ただ、向こうは赤身を食べるから、私たちのように刺身にしたら、固くて食べられないでしょう。肉の良し悪しは赤身や油の色、刺しの入り方、肉のしまり具合で見ます。冷凍品の味が落ちるのはやはり水分が飛んでパサつくから。あと馬肉は豚肉と違って熟成するとよくないんです。ただ、つぶしてすぐは身が緩んでしまうので、冷蔵庫に1日置いたくらいで食べるのがいちばんですね。
働くアリさん
ぼくのアリに対する興味は天性のものでしょう。子どもの頃の思い出もアリにまつわるものばかり、ガラス瓶に入れたアリを持ち帰っては母に見せていました。ぼくにとって、アリは本当に素晴らしい生き物なんです。受粉、土壌の形成や分解作用など、アリは人間を含むより高等な動植物が生きていくのに欠かせない仕事をしています。小さいけれど彼らはすべての鍵を握っている。この点だけを見ても、人間はアリに対して敬意を抱くべきです。アリは人間にとって不可欠な存在ですけど、それ以上にとにかく彼らは面白くて興味深い生き物です。実際わたしにとって、飼い犬に餌をやるよりもアリのコロニーに食べ物を与えるほうがずっと面白い。犬の場合、餌を出してやっても一気にかぶりついて、10秒後にはきれいに食べつくされたボウルが残るだけだけれど、アリに冷凍コオロギやゴミムシダマシの幼虫などを与えてその様子を観察するのは格別です。餌を発見したアリたちは協力しあって戦利品を巣に運び込むと、それを細かくして幼虫に与えます。あんなに小さい昆虫が有機的な組織として効率よく作業するなんて、すごいことじゃないですか。妻とバードウォッチングをしたこともありますが、互いの関心の違いがはっきり現れました。私は面白い昆虫や蟻を探すために地面を見下ろすのに夢中で、空を見上げていられなかったのです。
酸味で料理にアクセント
まずは巻き寿司にアリを使ったんです。次にバナナ、ハチミツ、オレンジのスムージーに入れてみましたけど、これはかなり好評でした。使っているアリは中国から輸入したものです。洗浄、乾燥済みなのでとても便利だし、見かけはキャビアそっくりです。アリはとてもドライで酸性の食材なので、料理には味付けのアクセントとして使います。食べると口の中に酸味が広がるのは、蟻酸を抱負に含んでいるから。一度、アリを使ってココナッツ・マカロンを試しましたけど、甘くなめらかなココナッツの味わいにアリの酸味という意外性が受けていましたね。人間は食べるものが何もなくなったときだけ昆虫を食べる、という説もあるけど、どうなんでしょう。だいたい昆虫類の多くは高価なんです。メキシコではアリの卵も食べますけど、キャビアよりも高価なものだし、本当においしいんです。昭和天皇は晩年、アリを召し上がっていたともいいますよね。私たちが普段、口にしている食べ物と比べて、昆虫は特に気持ち悪いものなんかじゃありません。昆虫に似たエビやロブスターは海の汚物をきれいにする働きのある、人気の食材ですし。人間が口にする昆虫は植物だけ食べる厳格な菜食主義者のようなものなので、ある意味では清潔な食材といえます。アリを食べる食べないは、それぞれの人が育った背景にある食習慣の違いによるでしょう。中国にはアリで造る酒もあるし、調味料としても重宝されています。彼らがたくさんのアリを消費するせいで、絶滅の危機にある品種もあるほどなんです。
親子な関係
去年の夏の終わりに勤め先の近くを歩いていたら道端に黒いものがうずくまっていて、よくみると鳩だったんです。都会の鳩は鈍なのが結構いて、巣から落ちたのか、まだ産毛の生えているこの鳩のヒナは飢えと渇きで弱っていました。でも捕まえようとするとよろよろしながらも歩いたので、とりあえず職場に持ち帰りました。その日は仕事で外出するふりをして小鳥の餌を買いに行って、割り箸で作った小さなヘラで鳩の口に餌を入れてあげて。夕方になると少し元気を回復してきたので、自宅に持ち帰ったんです。わたしは奈良の古い民家に住んでいるのですが、鳩は室内で放し飼いにしています。畳とかを糞で汚すので掃除は大変ですけど、やはり檻に入れたりせず自由にさせてあげたいので。初め、鳩は飛ぶこともできずに家の中を歩いていましたが、いまは部屋の窓を開け放つと散歩に出かけたりしています。でも、呼べば声が届く範囲でしか離れませんし、“ピー公”と呼べば必ず戻ってきます。夜もわたしの布団の上で寝ていますよ。感情の行き来があるので、ただかわいいというよりは子どもみたいなものですね。最初はわたしのことを親だと思って甘えていましたが、成長とともに自立心や闘争心も芽生えてきました。面白いもので、鳩はこちらの気持ちを汲み取るんですよ。わたしが苛立っているとその感情に反応するのか、こっちも本気で腹が立つくらい攻撃してきたりしますが、炬燵に入ってテレビでも見ているときは鳩ものんびりしています。食卓でも、必ず人の食べているものをちょっと味わおうとやってくるんですけど、それが鳥料理だったりすると、少し後ろめたいような気持ちになりますね。
リッチな家禽類
家禽類のなかでは鳩がいちばんの食材ですね。とても低カロリーな上、鳩はほかの家禽よりもヘルシーなんです。おいしくて、柔らかくて、体に良くて、おまけに風味豊か。鴨にも鶏にもホロホロ鳥にもない、独特の豊かな風味があって、だからわたしは鳩が大好きなんです。こういう最良の食材を手にすると、本当にワクワクさせられますね。わたしの店でもずいぶん前から仔鳩を使ったいろいろな料理を出しています。わたし自身の得意料理は仔鳩の塩包み焼きです。表面を焼いて外側の脂肪分を溶かした仔鳩を塩のペストリーで包んで、そこに細かい細工を施して鳩の形に仕上げます。この料理では塩のペストリーがものすごく重要な役目を果たします。鳩を完全に覆うので、熱が内側でじわじわと上がっていくのですが、ローストではこうはいきません。ローストすると熱が強すぎて筋肉がコチコチになってしまうんです。仔鳩を台無しにするいちばん簡単な方法は、熱を与えすぎること。強い熱でダラダラと調理してしまったら、食べられる代物ではなくなります。鳩の品質を見きわめるのはものすごく難しいですよ。まず、くちばしと足がとても柔らかく、しなやかでなくちゃいけない。となると生後3カ月以内ですね。あと、ふっくら肉付きのいい胸とほんのり黄色いくちばしも大事な条件。穀物ミックスとトウモロコシと、そしてほんの少し米を食べさせるとこうなるんです。それで重さが500グラムくらいなら、かなりいい鳩と言えますね。
私たちの生活に喜びをもたらしてくれる素晴らしいパートナー?おいしいものを食べたいと願う人間の食欲を満たしてくれるありがたい存在?生まれたての動物は、おそらく自分がペットであるとも、食材であるとも考えたりなどしていない。動物をペットと見るか、食材と見るか。それはあくまで人間側の論理に過ぎない。
文/ ケイト・クロケット、マーク・ロスター、ペク・ソン・ヒョン、シーラ・マーティン、Eatチーム